今週のマネジメント 「この人に辞められたら困る」エースの一本柱経営から、誰もが稼ぐ多本柱経営に変える際に持つべき視点とは?

 「あの人だけは特別扱いなんだから・・・」

ある社員だけ依怙贔屓(えこひいき)があり、他の人達にも徐々に知れ渡り始めている企業があります。

「優秀な社員はこの人だけ」そんな一本柱の経営が長くなってしまった企業は「この人に辞められたら困るから」と最初はほんの少し優遇しただけなのに、その稼ぎ頭のエースが何度もへそを曲げるものだから「まぁまぁまぁ、君だけは大目に見るから」「こんな特典もつけるからさ」など、どんどんエスカレートしていき、いつしか社長の知らない間に従業員間では

 「あの人は社長のお気に入りだよ」

 「うちは結果を出すより、社長に気に入られたもの勝ち」

 「客より社長の顔色を視なきゃ」

など経営者にとって望まぬ風潮が定着しててしまうことも。

「そうなってはいけない」「稼げる人は多いに越したことは無い」と求める経営者もいらっしゃるでしょう。まるで大企業が新たな収益源を得たいからと当り前のように、次々に多角化を進めるかのように、エースが一人だけの一本柱経営から多本柱経営へとチェンジしたいと動く企業は多いです。

しかしこれはそう簡単にはいきません。

現実には「なぜエース以外に稼げる人が次々に生まれてこないんだ?」と何年経っても「あの人がいなくなったら会社は危ない」と言われるような一本柱経営から抜け出せない企業も・・・。

店舗ビジネスで例えますと「やっと3店目を出店できたぞ」と傍から見ると「順調ですね~」と言われるくらいの企業でも、実は社長の本音としては「本当に店長として稼いでくれる人は1人だけ。他の店長は半人前だけど仕方なく任命したんです」というような状態です。

社長としては「半人前の彼らでも、店長を任せていればいつかはエース並みに稼いでくれる人に育ってくれるんじゃないか?」と期待したいところですが、何年経っても半人前のまま・・・ということが実際にあり得ます。

 

ところがそんな中、社長は「特に苦労した覚えはありませんが・・・」とはおっしゃるものの、誰もがバンバン稼いでくれるエースだらけの多本柱経営に見事にシフトチェンジできる社長もいらっしゃいます。

一体何が違うのか?

それは「多本柱経営に変えると、きっと良く思わない人達が現れるだろう」という視点があるからです。

 「そんな人達はやがてこんな意地悪をしてくるだろう」

 「だから会社としてこんなカラクリを用意しておかなければ」

と事前対策がバッチリ打てているからです。

カラクリができているため、いちいち社長が「なんでエースが次々に誕生しないんだ?」「どこに問題があるんだ?」など目を光らせる事も必要ありません。エースは自動的にポンポン生まれてくるのです。

一方いつまでも「社長の右腕はあの人だけ」という一本柱経営から抜け出せない企業は「なぜいつまで経っても2人目のエースさえ誕生しないんだ?」「あれが原因なのか?」「いやこれか?」といちいちチェックに目を光らせては空振りの連続が待っています。

ことごとく空振りに終わる理由は社長の視点に

 「多本柱に変えて、良く思わない人など現れるわけがない」

という状態だからです。

なかには

 「会社が儲かればみんなもハッピーになるに決まってる」

 「全員の給料も上がるんだし『君はあの会社で働けているの?スゴイ!』という社会的地位も上がるんだから」

 「多本柱経営に良く思わない社員やスタッフなどいるわけがない」

と 多本柱経営=皆がハッピー を疑わない方もいらっしゃいます。

人は眼に見えないものや認識していない脅威には無防備です。

「なんか体が熱っぽいし、咳が止まらない・・・」

病気に詳しい人ならば「これはまずいぞ!」とすぐ病院に行きますが、認識が薄い人だと「たまたまかな?」「いつか直るだろう」と放置するような違いに似ています。

そしてその無防備なのに「おかしいな、なんでうまくいかないんだ」という状態が長く続くとどうなるのか・・・?

そんな企業の行く末の1つを紹介しますと「あれをやってはダメ」「これをやってもダメ」という禁止事項だらけの窮屈でつまらない「がんじがらめ企業」の誕生です。

なぜエースが何人も育たないんだ?と悩むだけならまだしも、「もうこの行為は禁止!」「あれもやってはイカン」ともぐらたたきのごとく禁止事項のオンパレードを始めてしまうケースがあります。

そもそも人よりも大きな結果を出し続けられるエースとはどんな人達なのか?と言いますと、それは「様々な選択肢がある環境でこそ、より大きな結果を出せる人達」です。

 「あれをやってもいいし、こうしてもいい。自由にやり給え」

そんな寛容な組織でこそ、彼らはより高く羽ばたけるのに、あれもダメ、これもダメというがんじがらめの組織では頭角を現すことはできません。

そんな中でも活躍できるエースは社長の事を良く知っている古参のエースぐらいです。

古参のエースにひけをとらずに優秀な働きを見せて来た次期エース候補生達の間にはやがてこんな感情が芽生えます。

 「果たしてこのがんじがらめの会社で自分は活躍していけるんだろうか?」

そして何かのきっかけを元に

 「もっと活躍できるステージはどこかにあるんじゃないか?」

と会社を去っていってしまいます。

当たり前ですがその後に「会社はあの時から全然変わって、働きやすくなったんだから戻ってきなさい~」といくら訴えかけても「じゃあ戻ります」なんてことはまずありません。重要なのはそうならないように会社として事前に手を打てていたのか?です。

一見、躍進している企業の社長ほど剛腕かつ強引に見えます。彼らは「これだ!」という直感型で「ついてこないやつは知らん」というワンマンぶりな印象があります。

パワフルな言動だからこそ「いつまでも私は社長についていきますよ」という人達に囲まれるんじゃないか?と見られがちですが、実際には稼ぐエースが何人もいる企業の社長ほど、一見剛腕に見えて実は誰よりも思慮深く、先の先まで見据える心配性な方が多いものです。

 

ではどうしたら「多本柱経営にしたら良く思わない人達が現れるんじゃないか?」などセンサーを敏感にできるのか?

それはこの方法に尽きます

 「従業員の立場で考える事」

こう言いますと「伊東さん、そんなの当たり前でしょ、ずっとやってきてますよ」と言われるかもしれません。しかしこのあまりに基本的過ぎてバカバカしいくらいの方法こそ確実なのです。

なぜなら店舗ビジネスの現場は「接客」が基本だからです。

棚ぼた出世で、いきなりのし上がった社長でない限り、下積み時代に「客が悪いから売れないんだ」などと考える事は無く「自分のやり方が違っているんじゃないか?」と常にお客様の立場に立って考えるといった行為を延々と繰り返してきた人ほど、いざマネジメントする側に回った時に、あらゆる想定を元にスムーズに多本柱経営にできるカラクリを用意でき、大きな成果を出し続けることができるようになります。

 

御社には稼ぎ続けられる人は多いですか?

もし少ない、そして禁止事項だらけになってしまっているという状態だったり、それでも「多本柱経営にチェンジしたい」とお考えだったとしたら「多本柱経営に変えると、きっと良く思わない人達が現れるだろう」という視点で見つめ直してみてはいかがでしょうか?

きっとはじめて視えてくるものがたくさん出てくるはずです。