今週のマネジメント チェーン企業の店長ほど「楽」な職は無い

数日前、ある回転寿司チェーンの店長が自殺したとの報道がありました。

現状ではパワハラの事実は無いとのことですが、原因が何であろうともこのような事態が発生してしまったことは当人の関係者やその企業はもちろん、多店舗事業を営む方々にとっても非常に残念な出来事です。

このニュースを見聞きした世間の人達からは、チェーン企業に対してよろしくないイメージを持たれる事は避けられないでしょう。

実際にチェーン企業とは関係が無い私の知りあいからも

 「やっぱり。あのチェーンは常に好調だから仕事は相当キツイんじゃないか?」

 「自分の子供には、絶対にチェーン企業には就職させない!」 

困ったことに

 儲かっているチェーンの店長=過酷

という関係式を持たれている方は多いと感じざるを得ません。

では一体いつからこの良からぬ関係式が一般の方に定着しだしたのか?

 

私がそれを実感したのは今から10年ほど前の話になります。

当時、ある会社を経営されている社長がこうおっしゃいました。

 「伊東さん、うちの会社では昇進を嫌がってる社員がいるんですよ」

 「今の若いもんは何を考えているのかわからない・・・」

その理由は、ある社員に店長昇進の内示に難色を示されたからとのことでした。

その企業では創業以来はじめて東京進出が叶い、翌年には出店できるところまで決定していた為「歴史的な一歩だ」と幹部達は大いに盛り上がっていたのです。

さて、その大事な新店の店長を誰に任せるか?

「ここは無難にベテランを!」という意見も多かった中、出店地域が有名な複合商業施設の近くということもあり、社長は「若いエネルギーが要る」との方針を示されたのです。

人事部長は社長の方針に沿って適任者を探していたところ、前年度にスマホのアプリから大ヒットしたキャラクター商品をいち早くメインに扱って、売上を130%台に乗せられた優秀な店舗勤務社員に白羽の矢を当てたのです。

「君しかいないんだ」「誰もがうらやむ辞令だぞ!」と彼に辞令発表の前日に上司が内示を伝えたところ、喜ばれるどころか本人は『え・・・・ちょっと待ってください・・・・』と急に曇った表情を見せたのです。

上司は「これは何か変だぞ」と察したのですが、悪い予感は的中。「どうした? 最高じゃないか、君は会社に認められて大抜擢されてるんだぞ」など説得を重ねたのもむなしく、本人の表情は曇ったまま。その日の勤務終了前には「私は会社を辞めるかもしれません・・・」とのワードも出た為、これは危ない!と会社に報告が上がり、彼に辞められては困ると辞令は急遽変更したとのことです。

 「考えられますか? 伊東さん」

 「我々が現役の頃は店長として辞令をもらった社員は誰もが『ついに念願の店長になれるぞ!』『待ってました』『私も一国一城の主か・・・』と震えていたというのに・・・真逆の反応ですからね」 

 

この時から私はずっとこんな考えを抱いていました。

多店舗事業の店長職は、誰から見ても魅力あふれる職であるべきだ

 

私は独立起業し、会社を経営している身となりました。

そして日々私が行っている仕事によってクライアント企業にはこんな式が成り立つようになりました。 

 儲かっているチェーンの店長=楽(らく)

 

 

現在、多店舗ビジネスを経営されている社長に「最も重要な役職は?」とお聞きしたらどうお応えになる事でしょう?

ちなみに当社のお客様の大半の社長はこうおっしゃいます。

「それは店長ですよ」

 

どんなビジネスであれ、儲かっている企業の重要な役職は、誰もがうらやむ仕事環境が整っています。それは自然とそうなったのではなく、社長がそうなるようにと創り上げているからです。

 

毎年順調に利益を上げ続けられているF社の社長はある日こうおっしゃいました。

 「伊東さん、私は社員からこの言葉を聞きたくて今までやってきたんですよ」

一体何があったのか? 

F社はその日、新年会が開催されていました。「みんなよく好成績を出してくれた!」と会社と関係の深いおなじみの店で実施されたそうです。

店長会議後の堅苦しい雰囲気から一転し、徐々に場も盛り上がってきた中、社長に一杯つごうとある店長がやってきました。

「社長、僭越ながらお願いがあります」

社長の周りにいた幹部達は危険なワードが急に耳に入ってきたため「おいおい、バカな事を口走ってくれるなよ」とその場の空気がピーンと張りつめた中、彼は

 「私、店長としては成績はいい方だと思うんですが」

で何人かがクスっとなり、彼は続けました。

 「私は学生時代からずっとリーダーという立場から逃げてきました」

 「責任ばかり押し付けられる立場が嫌だったからです」

 「ですから店長の辞令をもらった時は不安で不安で仕方がありませんでした」

 「でも今は、スタッフのみんなが私の一言を待ってくれて、頼ってくれる毎日が楽しくてしょうがないんです。一生店長を続けていきたいです」

 「社長、私はこれからもいい数字を出します。ただ昇進だけはさせないでください!」

 

 

本コラムをご覧の経営者に質問です。

自社の事業を社長視点で見つめた時、最も重要な役職はどの職でしょうか?

そしてその役職は「俺も、私もそうなりたい!」と社内の誰からも憧れる役職になっていますでしょうか?

更に彼らが社外の人達から見られた時「君はなんてすばらしい環境で仕事できているんだ!」と言われるようになっていますか?

全て「そうなってる」と即答できたとしたら、御社は間違いなく右肩上がりの利益を出し続けられる企業であることでしょう。