今週のマネジメント 第459号 モチベーションを「上げる」から「上がる」に変えた企業の事例

 「なぜ、いちいちモチベを上げなければならないのか」

ある社長がおっしゃいました。

 

何も言わなくても社員、スタッフ達は結果を出そうと動き続ける。

会社をこのような状態に持っていきたい社長もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

これを実現するには仕組み化が必要で、簡単には確立できません。

特に店舗という形とっているビジネスでは、働く場所も、働く曜日も時間も離れていますので、より複雑さが増してしまいます。

 

私はそんな「社長がいちいち従業員たちのモチベーションを上げるより、勝手に上がる組織」に変えることをお勧めしています。

その理由は至ってシンプルで、働く人達が主体的、能動的であった方が良い結果を出していけるからです。 

ただ問題なのは、この仕組みづくりはそう簡単にいかない点にあります。 

 

ここで

 「仕組みづくりが上手くいかなかったら、別に実装しなければいいだけの話でしょ?」

といった声をいただくかもしれません。

 

しかしこれはそう単純な話ではありません。

なぜなら、いちいち経営陣が従業員たちのモチベーションを上げなければならない組織とは、言い換えれば

 

お気づきのようにこういった組織の人達は「受け身が当たり前」となっています。

 「自ら動かなければ」

 「もっと大きな結果を出したい」

そんな主体的、能動的組織にはなれません。

  

ではもし自社が

 「社長が何も言わなくても社員、スタッフ達は結果を出そうと動き続ける組織にしたい」

と望むのであれば、どうしたらうまく仕組みを構築できるのか? 

 

今回のコラムでその重要なポイントを1つ挙げます。それは

 「社員やスタッフ達が『もしかしたら飛躍できちゃうかも』と感じられるポイントを盛り込む

です。 

 

 

これは店舗を持つ形でビジネスをされている、ある企業の事例です。

社長が当初目指していたのは、いちいち各リーダー達がモチベを上げる形から脱却し、

 「結果を出すには?」もしくは 「結果を出したから見てくれ」

などと、リーダーがひっぱりだこになる形でした。

 

ところがうまくいってないとのことで、私伊東はその原因を探るため、

 「社内では人の評価をどう分析し、決定しているのか?」

その点に注目してみたところ、ある視点の欠落が浮き彫りになったのです。

 

その視点がまさに

 「社員やスタッフ達が『もしかしたら飛躍できちゃうかも』と感じられるポイントが存在しない 

だったのです。

 

ところが社長の反応は

 「いいえ、あります」  「これがそうです」

 

その仕組みは人事異動の面について、従業員達に

そんなチャンスを感じてもらえるようにつくったとのことでした。

 

しかし、残念ながらそんなつくりにはなってはいませんでした。

それどころか逆に

ここで社長の反応は意外にも

 「あ〜・・・やっぱりですか」 

 

思い当たるフシがあったようで、続けてっこうおっしゃいました。

 「大きなチャンスを掴んでもらうには、厳しい条件をクリアしなければならないように設定してたはずなんですが、 それをクリアできる社員は想定以上に多かったんです。」

 「その時点で少しおかしいなとは思っていたんです・・・」

 「でも、私は『うちには優秀な社員が多いな』と思って疑ったりはしていませんでした」

  

どうやら悲しいことに、社長が「もしかしたら飛躍できるかも?」と思ってもらえるように苦労してつくった仕組みは、一部の社員達に

 「これは見返りが凄いけど、達成は困難だ」

 「だったら我々の派閥内で協力し合って、クリアできる人を増やしてしまおう」

と捉えられていたようで、

誰かがチャレンジしたら、派閥内の管理職級の社員であれば、その人の仕事環境を優遇したり、また他の関係者たちは、その人が良い数字を出せるようにと、協力しあっていたのです。

 

悪く言えば、複数の社員による数値操作です。

 

こうして社長の望まない

がいつの間にか社内にできあがって、それが定着してしまっていたのでした。

 

とても残念なことですが、実はこういった

ということはあり得ることです。

 

ちなみにその企業は、もともと社長の「いちいちモチベを上げなければならない組織からの脱却」が根強く残っていたせいか、私もお手伝いし、半年という短い期間で仕組みを実装して、変えられることができています。 

 

 

仕組みづくりで重要なのは、社長の力です。

仕組みを実装するという行為は、社長にしか変更が許されないほど会社の重要な中枢をいじくるということです。

 

そんな重要事項について、ある社員に

 「君がこのコンサルの先生とうまくやりなさい」

などの丸投げで実現できるものではありません。

 

社長が会社をどうしたいのか?

根本から変えなければならない

そんな強い想いが不可欠なのです。

  

 

今回のコラムをまとめますと

 ・従業員のモチベが勝手に上がる仕組みがなければ、いつまでも主体的に動かない組織のまま

 ・仕組みの構築を間違えてしまうと、社長が想定していないような悪い常識が定着してしまう 

となってしまいますが、別に私は店舗という形を持つビジネス企業の社長に震え上がって欲しくて、わざと意地悪な表現を取っているわけではありません。

 

 「社内の仕組みが今現在、どう機能しているのか?」

それは今現在の会社の全てを表しているといっても過言ではありません。

 

私は企業経営者の仕事は、仕組みづくりとその管理が本業だと考えています。

 

 ・いかに機能的な仕組みがつくれるか

 ・いかに無駄の無い仕組みがつくれるか

 ・そして、社長の想いが常に反映されているか?

企業経営者は、そこに注力していくべきではないでしょうか?

 

  

ちなみに、今回ご紹介した企業の事例には1つ疑問が生まれます。

それは、

 なぜ社長は仕組みづくりに、キナ臭さを感じていたのに、見直そうとしなかったのか?

 

社長はおっしゃいました。

私がつくった不完全な仕組みを、褒めてくれる人がいたからかもしれません。

 

例えば、かつて大企業に努めていた中途入社の社員が口にした言葉です。

 「社長、正直驚きました。この会社にはこんな仕組みがあったんですね」

 「ということは、幹部の人達は全員、その厳しい試練を乗り越えて今に至るんですよね」

 

 「実力が無いとリーダーになれない会社」

 「さすが、凄いですねえ」 

 

そんな声を聞くたびに気が緩んじゃってたんでしょう。

 「このままでいいんじゃないか?」と。