今週のマネジメント 第502号 細かい決め事でも無視されず、徹底してもらうには

「伊東さん、細かいことを徹底してもらう良い方法はありますか」
ある社長から質問をいただきました。
最近、ある店舗だけ数値が悪い理由を調べていた所、お客様への一言が欠けていたことが判明したからでした。
ビジネスにおいて
「細かいことだけど徹底してほしい」
といったことがあります。
社員やスタッフ達からすれば「たかがそんな事?」と捉えられてしまうほど、取るに足らないことかもしれません。
しかし社長がそれでも徹底してもらいたいのは、その次に待っているステージや、更にその先にあるゴールを目指したいからではないでしょうか。
これは簡単なことではありませんが、店舗型のビジネスでは更なる難題に変わります。
まず全店のスタッフを含めると、働いている人の数が多いです。
そして店舗は、社長と離れた場所にあり、社長の勤務曜日、勤務時間が違っているため目が届きません。
指摘して改善してもらうどころか、その前の段階であるチェックさえも大変だからです。
社長の「社員やスタッフ達に、細かい事を徹底してもらいたい」という考えは重要です。
なぜなら、それが会社の個性という強みになるからです。
個性は簡単には真似されません。
業績を上げていきたい社長にとっては必須の要素と言えます。
「どうしたら細かい決め事でも徹底してもらえるか」
これはただ単に社長から「ちゃんとやりなさい」と言っただけではうまくいきません。
ありがちなのは社員、スタッフ間において
「そんな細かい所までやる必要あるの?」
「冗談じゃない」
などと軽視されたり、
「恥ずかしいからやりたくない」
などと捉えられたり。
時には
「俺はそんなのやってないよ」
「やるわけないじゃん」
「忠実にやってる◯◯さんはみっともない」
などと、会社の方針を無視している人ほどかっこいい、というやりとりが聞こえてきたりすることもあるでしょう。
しかしだからといって、強制してしまうと今度は「パワハラだ」などと言われかねません。
ある社長がおっしゃいました。
「べつに私は何時間も残業しなさいと、無茶な事を言ってるわけではないんですよ」
「何故たったコレだけのことをやってくれないのか」
細かい事を徹底してもらうことが大変だからと、諦めてしまうこともあるでしょう。
しかし、妥協の先にあるのは個性の無い会社です。
個性が無いと、面白みが損なわれ、他社と差別化ができずに埋もれていきます。
店舗型のビジネスの社長が
「どうしたら細かい決め事でも徹底してもらえるか」
と課題を抱えた時、持つべき大事な視点があります。
それは
人は人によって腹にハマるポイントが違う
ある会社の事例です。
今まではお客様が自由にお買い物ができるようにと、見守る接客をしていましたが、社長はそれを変更。
これからは積極的に声をかけていきなさい、としました。
これに各店長も困惑。
自分達も含め、そんな事が簡単にできるスタッフはそうそういなかったからです。
しかし数カ月が経過したところ、ある店舗の数字が伸びました。
その理由は店長号令のもと、全スタッフが頑張ってくれたからではありますが、スタッフのYさんは特に良い結果を出していました。
そこで社長が考えたのは
「Yさんを本社で表彰すれば『次に続け』と、全店が加速していくのではないか」
表彰当日、社長が初めてYさんとお会いすることになりました。
「きっと過去に何かやってて、接客が得意な方なんだろう」
しかし実際に話してみた所、とても接客が得意な人とは思えないほど上手く会話が成立しません。
本当にこの人がYさんなのか?と思ってしまったほど。
Yさんは社長の手前、緊張してたこともあるものの、もともと内向的な人だったのです。
「一体どうやってYさんは結果を出したのか?」
不思議に思った社長が本人に尋ねたところ、返答は意外でした。
Yさんは俳優志望。
そのために、人付き合いが上手にならなければならない。
だから声掛けは苦手だけど頑張りました、ということでした。
社長が感じたことは2点。
・俳優志望の人は、誰もが明るく人付き合いが得意な人という先入観があったこと
そしてもう一つは
・人の考えは、実際に聞いてみなければわからない
社長が会社に個性が欲しいからと、皆に細かい事でも徹底してもらいたいとするのであれば、一人一人の個性が軽視されるような行為はすべきではありません。
店舗は本社、本部とは離れた場所にあり、働く曜日、時間も皆違います。
そして働く人達の人数も多いです。
つい「面倒だから一気に変えよう」としてしまいがちです。
皆が徹底してくれないからと部署長や店長を責めていても浸透していきません。
それは、店舗型のビジネスとは
・どんなに規模が小さい店であっても、
・週に1〜2回しか出ていない人でも
・深夜に勤務していて、なかなか会えない人だとしても
一人一人がそれぞれ頑張っていてくれてるからこそ、成立しているビジネスだからです。
会社に個性がほしいのであれば、働いている人達の個性を尊重し、一人一人が腹にハマるポイントが違うということに気をつけて進めていかなければならないのです。
