今週のマネジメント 第505号 店舗型のビジネス企業に流行るウソ報告病とは

「伊東さん、こんなのはどうですか」
最近、他社で発生した賞味期限偽装問題。
他人事ではないと捉えたある社長が、対策案にブレがないかを確認してほしいとのことでした。
店舗型のビジネスはそれぞれの店舗が社長から離れた場所にあり、勤務曜日や勤務時間が異なるためトラブルや不正は起きやすくなります。
問題が発生しないように、どんな対策をうっておいたらいいか。
良い案が出ればそれに越したことはありませんが、それ以前に大事なのは
「社長の想いが店舗を含めた社内全体に伝わっていく形になっているのか」
ではないでしょうか。
なぜならいくら社長から良い案、効果的な発信があったとしても、形ができていなければ組織全体に伝わっていかないからです。
私はたまにこんな質問をします。
「社長は正しい指導がなされているか、どうやって確認してますか?」
困ったことに店舗型のビジネスには特有の病気が流行る傾向があります。
それはウソつき病。
その名の通り社員達が
「私はこう伝えました」
「このように指導しました」
などのウソの報告をしてしまう症状です。
さてここで
「そんなわけないでしょ」
「すぐバレる」
「いたとしても少数では?」
と言われるところでしょうか。
しかし、残念ながらこれは多くの店舗型のビジネス企業に発生したままになっています。
ある会社の事例です。
その会社は大手。
社長の徹底力が売りの成長企業です。
ある日社員Aさんは、ほとんどがフランチャイズ加盟店ばかりの難しいエリアの担当を任命されました。
意欲に燃えていたAさん。
「会社の政策、方針を素早く各店に浸透させ結果を出していきたい」
社長の期待通りAさんは来る日も来る日も熱心に社長の言葉を各店にお伝えし、少しずつではありますが数字も変わってきていました。
しかしAさんは逆に不満を感じていました。
「おかしい」
「各店の反応は『わかりました』『すぐやります』と前向き」
「もっと数字は上がっていもいいはずでは」
そんなある日、社長は新たな会社の政策として夜の時間帯の販売力を上げていきましょうと打ち出しました。
それまで日中の仕事がメインだった各エリアの担当者達。
その期間だけは社員自身が、都合がつく日にフレックス勤務を上司に申請し、深夜の状態を確認、改善していこうとなったのです。
Aさんが普段は訪れない夜の時間帯に担当店を回っていたところ残念に思ったことは、各店に力説していた自分の話がほとんど徹底されていなかったことでした。
「ここまでできていないのか」
話し合った事はまるで「本部がやれというから仕方なくやりました」といった様子。どれもじっくりと入念に実行してくれた形跡はなく、ほとんどが1〜2分で対応しました感が満載だったのです。
Aさんが感じたのは、だとしてもおかしい。もっとできていてもいいはず。
どうしたらここまでいい加減になってしまうのか?
理由を突き止めようと、今まで一度も会ったことがないスタッフに自分は本部社員であり、今は夜の時間帯を見て回っていると説明し、貴方はいつも店長からどんな指導を受けているのか聞いてみたのです。
そのスタッフはこう返しました。
「え、店長からですか」
「特に何も」
「と言いますか、店長には1年くらい?は会ってませんよ」
店舗型のビジネスにおいて
正しい指導がなされているか、社長がこれを確認できる形になっていないと、どういったことになるのか。
どんな問題や不正が起き続けるのか。
この事例から色々推測ができるのではないでしょうか。
店長を変える
スタッフを変える
加盟店を変える
これは簡単ではありません。
がんばって説得したけど、変えられませんでしたという社員もいらっしゃるでしょう。
変えられたと思っていたけど、実は変わっていなかったということもありえるでしょう。
よって
「今日、数字を変えてこい」
「今週中になんとかしろ」
などとはなかなか言えるものではありません。
しかしだからといって
・変えることができなかったと、会社に正直に報告したのにリアクションが無かったとしたら?
・会社側が「そう簡単には店や人は変えられないよ」という反応を示し続けていたら?
・同じ立場の先輩達や仲間達が人を変えることに対して半、諦めのスタンスで仕事をしていたとしたら?
その社員はどう思うでしょうか。
そしてその後、どんな仕事をするようになるのでしょうか。
私が社長におすすめしていることは
店舗型のビジネスは構造上、ウソを報告されやすい形態だということを認識し、あらかじめ手を打っておくことです。
これが事前になされているかいないかでその後の会社の業績は大きく差がついていきます。
ある会社では
担当社員達は加盟店とはいつも世間話をしているだけ。
しかし、ある会社では
何とか変えようと、日々あの手この手をつくしています。
ある会社では
担当社員達はただ店舗をブラブラ見回っただけ。責任者には会ってさえいません。
しかし、ある会社では
責任者とはいつも膝詰めで話し合われ、一刻も早く社長の想いを再現してもらおうと必死です。
どんな企業が成長していけるのか。
それは
「正しい指導がなされているか」社長が確認できる工夫があり、社員達にはウソをついて逃げるというルートが存在しない会社
ではないでしょうか。
