今週のマネジメント 第507号 社長の考えを知ろうとしない人達のために、なぜ社長が苦労するのか

「伊東さん、やっぱりあのツールを使うのはやめました」

ある社長がおっしゃいました。

 

社長としての自分の考えをどうやったら社員やスタッフ達にブレ無く伝えられるのか。

 

今まで使い続けてきた伝達用ツールに欠点があることに気が付かれ、別の方法に切り替えたいとのことでした。

 

 

店舗型のビジネスにおいて、社長の考えを全員に伝えるのは困難です。

 

店舗はそれぞれが離れた場所にあり、社長や本部の人達とは勤務曜日や勤務時間が異なるからです。

 

どうしたら社長の想いを、よりクリアに伝えられるのか。

 

日々その方法を模索されている社長もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

自社にフィットする方法が見つかるに越したことはありませんが、探す以前に気をつけなければならないポイントがあります。

 

それは

 誰が努力するべきなのか。

 

 

ビジネスにおいて良い結果を出したいとした時、まず確認しなければならないのは方向性があっているかどうかです。

 

方向性を間違えていますと、たとえ不眠不休で努力したとしても、見当違いな結果を出してしまうことがあるからです。

 

ここまでですと「そんな基本のことを何を今更」と言われるところでしょうか。

 

しかし、これが店舗型のビジネスとなると基本ではなく難問となります。

 

その理由は社長と店舗従業員、また店長とスタッフ達の間が離れているからです。

 

 ・伝えたい事があっても近くにいるとは限りませんし、勤務曜日が同じとも限りません

 ・だからといって、休日や勤務時間外に伝えていたら問題になります

 ・もし伝えたい相手に運よく会えたとしても、いちいち過去の話を切り出して注意したりできるでしょうか

 

社長や店長の想いを伝えづらい環境ではありますが、だからといって何も伝えないわけにも行きません。

 

会社も店舗も組織ですから、たった一人であっても方向性がブレていますと

 「一体これは誰がやったんだ」

 「またやり直しだ」

などとなり、都度都度尻拭いをしなければならない人が絶えない状態になってしまいます。

 

そこで私がよく目に、耳にするのが「どうしたら自分の想いを伝えられるのか」と社長が自らが奮闘し続ける、です。

 

ここでコラムをご覧の方に質問です。

Q:貴方はこれまで良い結果を出せてきた時、方向性のブレがあってはいけないと努力していたのは、貴方に伝える側のリーダーだったでしょうか。

 

 

店舗型のビジネスを伸ばしていきたいのであれば

 「どうしたら社長の想いをブレなく組織内に伝えられるのか」

努力するのは社長自身ではありません。

 

努力すべきは

 「どうしたら社長の想いをブレなく知ることができるのか」

聞く側である社員やスタッフ達の方です。

 

しかし私は単に伝える側である社長は何もせず、楽をしていいと言いたいわけではありません。

 

社長は、どうしたら社内の誰もが

 「社長の考えを間違って捉えてはいけない」

 「今、社長はどういう考えなんだろうか」

 「私達は正確に理解しなければならない」

などと努力してもらえるような組織の形をつくりあげられるのか?

 
そんな視点を持つことです。

 

もし会社の状態が、社長が自分の想いを伝える度に

 「また社長がおかしなことを言い始めた」

とか

 「君はちゃんと社長の言った事を理解してるの?」

など、伝える側が努力しなければならない形になっていては良い結果を出していくことはできません。

 

これは店舗における店長とスタッフ達の関係も同じ事です。

 ・店長の言う事が軽視、無視されていたり

 ・店長の想いを知ろうともしない人達がいつも楽をしていたり

 ・店長の方針を素直に実行している人達ばかりが、できていないところの尻拭いをして苦労している

などの状態では、店舗の収益も上がっていきません。

 

 

かつて、社長の想いを伝える側が努力しなければならない状態だった、ある社長がおっしゃいました。

 「伊東さん、私はそれまで疑問さえ持っていませんでした」

 「伝わらないのは伝える側の努力が足りていないんだと」

 

 「でも、ある日こう思ったんです」

 

 「ちょっと待てよ・・・」

 「何で私ばかりこんなに必死になっているのに、話を聞こうともしない人達がマイペースに仕事をしているんだろうか、と」

 

 「その日を境にずっとイライラしてましたから」

 

苦労話を笑いながらおっしゃった社長。

 

その理由は、今ではすっかり聞く側が、社長の想いを正しく知ろうと努力しなければならない会社に変えられ、順調に業績を伸ばせているからです。