今週のマネジメント 「社内コンテスト」が会社を破滅に導く理由
「社内コンテストを起ち上げようと思っています」
「うまくいくでしょうか?」
ある社長から相談されました。
きっと社員、スタッフのスキルが磨かれていき、更に組織の団結力も得られ、売上、利益につながっていくだろう
そんな理由から
「定期的な社内コンテストを新たに企画、スタートさせました」
という企業は多いです。
社内コンテストの発足は、マネジメント面において有効な手段の1つと言えるでしょう。
しかし「何かを新しく創り上げる」ことにおいて気を付けなければならないことは
作り手の思惑が結果にダイレクトに反映される
という事
よって、作り手が心の底から
「これは重要だ」
と思っている事は作品に表れますが
「多分大事なんじゃないの?」
くらいの認識は見事にごっそり抜け落ちてしまうものです。
社長が監修されたとおっしゃるコンテストの内容を確認しまして、私の返答は
「やめたほうがいいです」
社長は驚かれていました。
それもそのはず
「きっと創るのに何日もかかっただろう」
と感じられるほど社長の強い思い入れが随所に感じられたからです。
きっと真剣に会社のことを考えて、身を削りつつ多くの時間を費やしたことでしょう。
それをたった一言でご破算にしてしまおうというのですから。
「このコンテストを始めると逆効果になりますよ」
「 社員、スタッフのスキルが磨かれていくのは一部の人達だけ」
「組織の団結力は低下し、売上、利益を下げる要因になります」
「何がいけないんですか?」
それはこのコンテストが
・時間を多くかけた社員、スタッフほど
・人同士が濃密な接触を重ねあったチームほど
結果を出せる仕様だからです。
今この時代
・店長は管理者に当たらない。残業の限界がある。
・3密回避
が叫ばれる中
「それでも結果を出してやるぞ!」
と力強くやってのける人はほんの一握りだからです。
せいぜい1~2割の人達だけでしょう。
全社員、全スタッフ向けにお創りになられたコンテストなのに、仕様の段階で
8~9割の社員、スタッフの参加を門前払いしてしまっているのです。
もし、このコンテストをスタートさせますとこんな反応が返ってくるでしょう
「日々忙しいのに、そんな時間は無いよ」
「自分には関係無いコンテストだな」
そして経営陣は翻弄されます。
「なんで参加率が少ないんだ?」
各組織のリーダーに
「ちゃんと案内してるのか?」
など余計な仕事が増えてしまうことでしょう。
しかしそうなるのはまだマシな方で、危ないのはマイナスの反応です。
「参加者は日々の仕事をおろそかにしてまで、自分の評価を上げたい連中だ」
「私は自分の評価よりもまずは目の前のお客様を大切にしたいんだ。そんな暇はない」
「この会社はそんな変な考え方の人達だけが評価されて幹部に抜擢されていくんだろう」
「時間も密も無視で『数字上げろ』ばかり口走る上司だらけになっていくんじゃないか?」
などと捉えられることです。
平成20年1月東京地方裁判所で、日本マクドナルドの店長が労基法上の管理監督者には当たらないとして、残業代等約750万円の支払いが命じられました。
チェーン業界に激震が走ったその日から各社、店長の残業時間に限界を設定するという経営方針の転換を余儀なくされたのは今から13年も前のことです。
ですから、この出来事はチェーン業界にとっては今や常識中の常識のはず。
それなのに、いざつくる段となるとそんな常識中の常識が頭に入っていたとしても
見事にごっそり抜けてしまうのはよくあることです。
創った当の本人以外の人からみれば
「この社長はそんなことも知らなかったの?」
「そんな常識が頭に入っていなかったなんてどうかしてますよ~」
などと見られることでしょう。
しかし、そんな蔑む意見の中で一部の方々には
「わかる!」
「自分もよくやっちゃうんだよね~」
「そうそう、知ってても抜けちゃうんだよな」
普段から独自に物事を構築しては失敗を繰り返してきている人達にとっては「あるあるネタ」ということで共感を得られます。
この社長のすごいところは
「なるほど、たしかに」
「これだけ密回避と言われて、自分も言ってたのに何やってたんだ私は!」
「1から創り直しますよ」
そう口にしただけではなく、次の日には全てゴミにして実際に1から再度創り上げていました。
普通なら私から
「それは使わない方が良いです」
といわれても
「そうは言っても、何かうまくいく方法があるんじゃないの?」
「何とか生かせないものだろうか?」
と、あの手この手で今まで積み上げた努力をリサイクルしようとする人は多いです。
しかし、重要な要素が抜けたまま創り始め、できあがった作品にはいくら手を加えても立派な作品に生まれ変わることはありません。
高層ビル建築中に、耐震面を全く考えていなかったことに後から気付いて
「何とかならないものか?」
と手を加えるような行為です。
とんでもない未来が待っていることでしょう。
「いちいち0から創ってたんじゃ世間に置いていかれるよ!」
誰かが創り上げた既存の作品、サービス、商品を導入しては
「これじゃないな」
「次は?」
を繰り返す企業と
0から物事を創り出しては
「またズレてたか」
「やり直しだ」
を繰り返す企業
どちらの方が市場と自分の考えとのズレをいち早く発見、修正でき、躍進していくことができるのでしょうか?