今週のマネジメント 店員の指導から逃げる店長達を変える、社長の「一気に」の視点とは?
「手ぬるかったのか?」
「店長達にはもっと厳しくするか」
「危うくそっちの方向に進もうとしていました」
ある社長がおっしゃいました。
働く人達の人数が多くなるチェーンビジネスにおいて、他社よりも業績を上げていくには全員の結束は不可欠です。
各店舗においてもそれは同じで、店長は店舗内で働く全スタッフからの本気が得られるように導かなければなりません。
店長だけが奮闘している状態だったり、一部の人達だけが頑張っていて、他の人達は手を抜いているようなマネジメントなど、どの企業にもできることだからです。
ある小売企業の例です。
ちょうど今くらいの時期の、海の日前後が一番当社が売上を上げられるからと、社長は「今年度は過去最高の結果を出すぞ!」と掲げ、過去最大のコストをかけたキャンペーンを行いました。
面白かったのは、各店がこぞって「過去最高記録を出してやるぞ」という動きがあったことです。
そして△△日には、〇〇店では・・・ □□店では・・・と、最高売上額がバンバン報告されたのですが、なぜか会社の利益面としては想定以上の結果は出せず、前年よりも利益を落としてしまったのです。
その理由はいくつか上げられたのですが、社長がにらんだのは
「一部の人達しか頑張っていなかったからではないか?」
そこで社長は「各店長が全スタッフに対してどのようなマネジメントをしたのか? 報告しなさい」と指示したのです。
各担当エリア長は、店長不在時に各店のスタッフに直接こう尋ねました。
「前回のキャンペーンの時に、あなたは店長になんて言われましたか?」
その結果、多くのスタッフはこう返したのです。
「え?・・・特に何も」
その後、社長に怒りの感情が湧いたのは言うまでもありません。
各店長がスタッフに対して関わろうともしない理由はそれぞれ違います。
よって、店長達の意識を変えていきたいとする社長の中には
「店長達は一体何につまずいているのか?」
「一人ずつそこを明確にして、スタッフに指導できるようにしなさい」
など指示される方もいらっしゃるでしょう。
しかしそれはスムーズにはいきません。
なぜなら「実は私には苦手なスタッフがいまして・・・」などと本音を言ってくれる店長など、まずいないからです。
その為、会社として一人ずつ店長の意識を変えようとしているのに、なかなか進まず、気が付いたら数年~数十年経過してしまった・・・なども十分にありうることです。
ここで私がチェーンビジネスの社長にお薦めする視点があります。
それは「全店長を一気に変えるのはどうなのか?」です。
かつて、あるチェーンで店長を経験した人の事例です。
彼はそれまで「1店が出せる利益はこのくらいが限界だろう」という社内の常識を根本から覆し、誰もが「え? 店ってそんなに稼げるの?」と驚かせることを実現しました。
彼が何をしたのか?
それが「全スタッフの意識を全員、一気に変えた」なのです。
当時、彼以外の各店長がとっていたマネジメントの手法は「スタッフの意識を、一人一人変えていこう」とか「頼れる右腕をつくろう」などでした。
しかし彼は初めからそういったマネジメントに否定的でした。
「一人一人変えていこうという方法は、何かが違う・・・」
「はっきりとはわからないが、嫌な予感がする」
「それより、全員の意識を『一気に』変えてみる方法は無いものだろうか?」
しかし彼の言う「一気に」という方法は「何も準備していない」という状態では実現できません。
「あれも・・・これも要るよね」
「そしたら、こんな仕組みも必要になっちゃうなぁ・・・」
考えれば考えるほど、準備しなければならない事は山のように出てきます。
「待てよ・・・これを全部創るなんて・・・私にできるのだろうか?」
どんどん気が遠くなっていきます。
やるべきことは沢山出てきますが、誰の協力も得ることはできません。
全て自分一人でやりぬくことが確定しています。
なぜなら、彼は店長だからです。
本社本部で働く部署長であれば
「実は、私はこう考えてるんだ」
「どう思う?」
「だよな! 君の力を貸してくれないか?」
など、他部署のリーダーなどに「手伝ってくれ」といった手段もとれるでしょう。
しかし、彼はそれができません。
店舗という、陸の孤島にいるからです。
しかも、その「一気に」という考え自体が合ってるか?間違っているか?もわからない、という余計なオマケ付きの条件下です。
それでも彼は見事に結果を出すことができました。
一体なぜ「誰もがさじを投げてしまいそうな高い壁」を乗り越えることができたのか?
彼は振り返ってみてこう言いました。
「後になってわかったのですが、私がスタッフの意識を一人一人変えようとしたくなかった理由は、誰にも2軍の辛さを味わって欲しくなかったからだと思います。」
彼の言う「2軍の辛さ」とは「会社や上司に注目されにくい人達の感情」を意味します。
それは例えば
「いつも注目されているのは、あの人達だけ」
「自分は常に蚊帳の外」
「いくら頑張っても、いくら良い結果を出しても、組織やリーダーは見てくれないし、見ようともしてくれない」
「たとえ上手くいっても、1軍の人達に手柄を横取りされてしまうこともあり得る」
などです。
会社のような組織にしばらく在籍していたという経験がある人ならば、こういった感情はよくわかっていただけるのではないでしょうか?
ここで
「2軍の辛さ?」
「そんなものあって当たり前だろ」
「甘えてんじゃない!」
と言うメンタルが強い方もいらっしゃるでしょう。
しかし「2軍の辛さ」は、人によっては耐えられないほどの苦痛です。
もしかしたら
「こんなに大きな結果を出したのに・・・」
「ここには私の居場所なんか無いのかもしれない・・・」
などと悪い方向に捉えられて、組織を去られるかもしれません。
店長の彼は何故
「一人一人変えていこうという方法は、何かが違う・・・」
「はっきりとはわからないが、嫌な予感がする」
と感じていたのか?
それは、彼自身が2軍の辛さを長い間味わってきていたからです。
過去に苦い経験をしていたからこそ、彼の心のどこかに
「一人一人変えていてはダメだ」
「もし私が一人一人の意識を変えていこうとしたら、手が回っていない人達からは『きっと私は店長にとっての2軍なんだな』と思われてしまう」
「全員を一気に変える!」
「これしかないんだ」
そんな強い想いが、過去に無いほどの成功を手繰り寄せたのです。
なぜ私がチェーンビジネスの社長に「一気に変える」という視点を持つことをお薦めするのか?
「誰にも2軍の辛さを与えずに済むから」でもありますが、更に大きな理由があります。
それは、チェーン店で働く店長達は「社長が全店長を一気に変えてやろう」というアクションをとると、強烈に心を奪われるからです。
昔は
「店長、結果を出しなさい」
でしたが、今はどこも
「店長、時間内に結果を出しなさい」
となっています。
限られた時間の中で、結果を出さなければならない店長にとって
「どうしたら全スタッフを一気に変えられるのか?」
このマネジメント方法はとても魅力的な方法なのです。
なぜなら、昔は当たり前だった過度な残業、サービス残業、休日こっそり出勤、退勤登録後にまた働く・・・などの裏技が使えないからです。
そんな今の時代に、社長が「全店長を一気に変えられるマネジメント」を行ったら、それは彼らの目にどう映ることでしょう?
私は言い切ります。
各店の店長達は必ずこうなります。
「そうか! 社長の真似して、こうやればいいんだ!」
やがて店長達は、自店のスタッフ全員のヤル気を一気に引き出すことができ、限られた勤務時間内に過去に無い数字をバンバン叩き出してくれるでしょう。
「1店、約40分の訪店で一週間回すことができる店長」も現れるほどです。
チェーンビジネスでは他社に比べて、新店をバンバン出せている勢いのある企業も存在します。
しかしそんなイケイケの企業であっても、やはり重要なのは「既存店の成績」です。
社長にとって、これほど重要なものはありません。
チェーンビジネスのマネジメントにおいては、社長が「一気に!」という視点を持つだけで、そこまで変えらえる可能性が生まれてくるのです。