今週のマネジメント 社員1人で何店もまわせるようになったチェーン企業が注目したポイントとは?
「伊東さん、やっと社員1人で2店まわせる体制になりました」
「目指すは社員1人で8店運営です」
鼻息荒くおっしゃったのは今まで店長、副店長の社員2名体制で1店運営されていた、あるチェーン企業の社長です。
単純計算で社員の人件費はこの時点で1/4となっていますので、会社の利益率はその分UPしています。
しかし社長はかつて、私が「社員1人で何店もまわせている企業」をご紹介した際にはこんな反応を示されていました。
「ウチはただでさえ店舗社員が残業過多なのに、そんなことが本当にできるんですか?」
「できたとしても現場のレベルが低下して、めちゃくちゃな店舗だらけのチェーンになりそう」
「店舗の無人化さえ考えているのに、それは無いな」
と懐疑的な見方だったのです。
ところがその後一転して
「どうしても自走式のマネジメントの仕組みを確立したい」
「伊東さん、力を貸してください」
あまりの心境の変化に驚いたので、一体社長に何があったのか?お尋ねしてみました。
社長がおっしゃったのは
「他チェーンを利用している時、社員並みに判断し、動けるスタッフに直接会ったから」
社長はラーメンが好きで、ほぼ毎日と言っていいほど積極的に新しいラーメン店を見つけては利用されている方です。
ある日の夜もラーメン店にて食事をしていたそうです。
店舗内はお客様が少ない中、学生アルバイトらしき若い男性スタッフは何かに一生懸命になっていました。
どうやらその店舗ではお子様連れのお客様を対象として、玩具を1つプレゼントするサービスがあるようで、いろいろな種類がひしめく玩具の並べ方に「ああでもない、こうでもない」と奮闘している様子。
本人はいたって真面目に仕事をしているようですが、傍から見ればお金につながらない行為です。 「そんな暇があるなら・・・」と、ここの店長はマネジメントもしないのか?と思いつつも「学生アルバイトなんかそんなもんだろう」とあまり気にも留めなかったとのことでした。
そして次の日
今度は街道沿い立地の別のラーメンチェーンの店舗を利用。
座席は8割が埋まっていてなかなかの盛況ぶり。
店員は誰もが慌ただしく仕事をしている中、少し待たされた後やっと注文したラーメンが来て食べていたところ
「お客様、お食事中にすみません」
ふと見上げるとフロアスタッフではなくコック姿の調理専門のスタッフでした。
「実はさきほどご注文いただいた餃子ですが・・・調理のタイミングを私が間違えてしまいまして提供が遅れました。 申し訳ありません。 お待たせしました。」
「お詫びと言っては何ですが、サービスで2個多く餃子をお付けすることができますが・・・いかがでしょうか?」
彼が手にしていたのは注文した餃子の皿と2個だけ餃子がのった小皿でした。
しかし「遅くなった」とは言ってるもののたった2~3分のこと。
「店側も黙って提供したとしても何ともないだろうに」
しかし、彼は自分のミスを反省し、わざわざ店長にサービスしていいですか?と許可をとってきたのか? それとも社内にそういったルールがあるのか? まではわかりませんでしたが、直接謝りに来たのです。
そして社長が感心したのは、その調理専門のスタッフは昨日の学生アルバイトと同じくらい若い人だったこと。
接客の言葉もたどたどしいのに、彼はきちんと行動に移せたのです。
「会社が違うとスタッフまでもこんなに違うのか・・・」
ここで普通のお客であれば
「いい店だな」
「また利用したいな」
と思うところでしょう。
そして利用したのが経営者であれば
「いい企業だな」
「見習いたいものだ」
と感じるところでしょうか。
しかし、社長はそう感じたのと同時に焦りも感じたとのことです。
・「スタッフなのにそこまで機転が利いて動けるとは見習いたい」と感じてしまったこと自体がおかしいのではないか?
・「スタッフは会社が求める行動を忠実にこなせているのは当たり前」となぜ考えなかったのか?
・「スタッフなんだから、社員並みに動けないのが当たり前」という先入観を持ってしまっている
その時期、社長の会社では全員で「会社の収益率を上げよう」と一致団結して取り組んでいたのですが、気が付かれたのは「店舗で働くスタッフだけは蚊帳の外」だった事。
会社の人達は店舗で働くスタッフ達をどう見ていたのか?というと
「スタッフなんだから半人前なのは当たり前」
「スタッフを一人前にできていないのは各店長の責任」
「何故店長達は彼らを数字に結び付けられるマネジメントをしていないのか?」
「ヤル気が足りないぞ」
毎月の店長会議では 「どうしたら全店長を数字が取れる強い指導者にできるのか?」
マネジメントのターゲットは常に店長。
そして内容は精神論ばかりが大半で、具体的にスタッフを戦力化する決定打がいつも無かったのです。
実際に数字を上げられる店長がどのくらい存在したのか?というとせいぜい1~2割。
社長は
「今のままではまずい」
「チェーン本部としてスタッフを一人前にできる具体的な策を用意しなければならない」
と模索され、仕組み構築が必要だという結論に至り、実現に至ったというわけです。
今、飲食チェーンではセントラルキッチンありきという考えが主流です。
効率が良い分、会社の収益を上げやすくなります。
しかしそんな主流を無視し、店舗ごとにわざわざキッチンを備えて
現場で出来立ての商品を提供し、大きな収益を上げられている有名なうどん販売チェーンもあります。
今、小売チェーンでは「店舗の無人化」が注目されています。
効率が良い分、会社の収益を上げる事ができるでしょう。
しかしその主流を無視し、それぞれ店舗で働くスタッフが社員並み、もしくはそれ以上の生産性を上げられ、接客重視型で高い収益を上げられている企業もあります。
時代の流れにのることなく、自社の強みを実現できている企業に共通する点はそれぞれの経営者が
「自社の強みは〇〇だ」
「だからこうあるべきじゃないのか?」
「未来はこうなっていくはずだ」
と考えていたからで、彼らには「これが当たり前」という先入観は存在しません。
そんな自社オリジナルの道を突き進める企業には競争相手がほとんどいません。
未開の地を自ら開拓できていくからこそ、他社よりも大きな利益を得られ続けていけるのです。